退職金の所得控除と「2回受け取り」の注意点

会社を退職する際に受け取る「退職金」。
サラリーマンにとっては、老後資金や住宅ローン返済、教育費の補填など、人生の中でも特に大きなお金です。

一方で、

  • 退職金にはどんな税金がかかるのか

  • 所得控除とは何か

  • 2回に分けて退職金を受け取ると税金はどうなるのか

といった点は、意外と正しく理解されていません。

この記事では、退職金の所得控除の基本から、2回に分けて受け取る場合の注意点(いわゆる「4年ルール」)まで、ファイナンシャルプランナーの視点で分かりやすく解説します。

退職金は「退職所得」として特別扱いされる

退職金は、給与や賞与とは異なり、税法上は「退職所得」として扱われます。
これは、長年の勤務に対する報償という性格を考慮し、税負担が大幅に軽くなる仕組みが設けられているためです。

退職所得の税額計算は、次の流れで行われます。

  1. 退職金の総額を確認

  2. 退職所得控除を差し引く

  3. 残った金額の「2分の1」を課税対象とする

  4. 所得税・住民税を計算

この中でも、特に重要なのが「退職所得控除」です。

退職所得控除とは何か

退職所得控除とは、勤続年数に応じて、退職金から差し引ける非課税枠のことです。
この控除があるため、退職金は「思ったより税金が少ない」と感じる人が多いのです。

退職所得控除額の計算方法

退職所得控除額は、勤続年数によって次のように計算されます。

  • 勤続20年以下
     40万円 × 勤続年数(最低80万円)

  • 勤続20年超
     800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)

具体例

勤続35年の場合
800万円 + 70万円 × 15年 = 1,850万円

つまり、退職金が1,850万円以下であれば、原則として税金はかからないことになります。

退職所得の計算例(1回で受け取る場合)

例えば、次のケースを考えてみましょう。

  • 勤続35年

  • 退職金:2,000万円

  1. 退職所得控除:1,850万円

  2. 課税対象額:2,000万円 − 1,850万円 = 150万円

  3. 課税所得:150万円 ÷ 2 = 75万円

この75万円に対して、所得税・住民税がかかるだけです。
給与所得と比べると、極めて有利な課税方法であることが分かります。

退職金を「2回に分けて」受け取るケースとは

近年、次のようなケースが増えています。

  • A社を退職し、退職金を受け取る

  • 数年後、B社を退職して再び退職金を受け取る

  • 企業型DCや確定給付企業年金を「一時金」で受け取る

このように、退職金を複数回に分けて受け取る場合、退職所得控除の扱いに注意が必要です。

退職所得控除は「何度でも満額使える」わけではない

多くの人が誤解しがちですが、
退職所得控除は、退職金を受け取るたびに無条件で満額使えるわけではありません。

ここで重要になるのが、いわゆる「4年ルール(5年ルール)」です。

退職金を2回もらう場合の注意点(4年ルール)

4年ルールとは

同じ人が複数回、退職金(退職所得)を受け取る場合、
前回の退職金の受給から4年以内に次の退職金を受け取ると、

👉 退職所得控除額を通算して計算する
というルールがあります。

つまり、2回目の退職金では、控除がほとんど使えなくなる可能性があるのです。

具体例で見てみましょう

ケース

  • 1回目退職金:1,500万円(勤続30年)

  • 2回目退職金:1,000万円

  • 受給間隔:3年

ポイント

  • 3年後なので「4年以内」に該当

  • 退職所得控除は通算される

結果として、
2回目の退職金では 新たな退職所得控除はほぼ使えず、税金が想定より高くなるケースがあります。

5年以上空けるとどうなるのか

一方で、前回の退職金受給から5年以上経過していれば、

  • 退職所得控除は改めて計算

  • 実質的に「別の退職」として扱われる

ため、2回目でも退職所得控除をしっかり使える可能性が高くなります。

この違いが、「4年以内か」「5年以上か」という点で非常に重要なのです。

企業型DC・確定給付年金との関係にも注意

退職金とは別に、

  • 企業型確定拠出年金(DC)

  • 確定給付企業年金(DB)

を「一時金」で受け取る場合も、退職所得として扱われることがあります。

そのため、

  • 退職金

  • DC一時金

の受給時期が近いと、退職所得控除が圧縮される可能性があります。

老後資金の受け取り方を考える際は、「金額」だけでなく「受け取るタイミング」が極めて重要です。

退職金の受け取り方は「事前の設計」が重要

退職金は、受け取った後に「やっぱり失敗だった」と思っても、
やり直しがきかないお金です。

特に、

  • 複数社から退職金を受け取る予定がある

  • DCやiDeCoを一時金で受け取る予定がある

という方は、
退職所得控除の使い方を含めた全体設計が欠かせません。

まとめ:退職金の所得控除を最大限活かすために

  • 退職金は「退職所得」として優遇されている

  • 退職所得控除は勤続年数に応じて大きくなる

  • 退職金を2回に分けて受け取る場合は「4年ルール」に注意

  • 5年以上空けるかどうかで、税負担は大きく変わる

  • DC・企業年金の一時金も含めて考える必要がある

退職金は、人生最大級の「税務判断」が必要なお金です。
正しい知識を持ち、計画的に受け取ることが、老後の安心につながります。