退職所得と退職所得控除
退職所得とは、退職手当、一時恩給など退職時にまとめて受ける給与やそれらと同じ性質を有する給与(これを「退職手当等」といいます。)に係る所得をいいます。その退職所得を計算する上で、勤続年数に応じた金額を退職手当等から控除することができますが、この控除額が退職所得控除です。
退職所得は、勤続年数が長くなれば退職手当等も高額になりますが、給与所得の所得控除とは異なる退職所得控除により、税金面で大幅な優遇措置が図られています。定年後の収入金額にも大きな影響を与えますので仕組みについて理解しておきましょう。
退職手当等に含まれるもの
退職所得として課税される退職手当等とは、退職したことに基因して一時に支払われることとなった給与をいいます。逆に言うと、退職時又は退職後に使用者から支払われる給与で、支払金額の算出基準から見て、他の引き続き勤務している人に支払われる賞与等と同じ性質であるものは、退職所得ではなく給与所得とされます。
退職手当等には、主なものとして以下の金額が含まれます。(詳細はこちら)
◆退職手当等とみなす一時金
- 厚生年金基金における一時金
- 石炭鉱業年金基金における一時金
- 中小企業退職金共済における一時金
- 特定退職金共済における一時金
- 私立学校教職員共済における一時金
- 農林漁業団体職員共済における一時金
- 社会福祉施設職員等退職手当共済における一時金
- 外国の法令に基づく保険または共済における一時金
- 退職手当制度における一時金
- 確定給付企業年金【基金型】における一時金
- 確定給付企業年金【規約型】における一時金
- 小規模企業共済における一時金
- 企業型確定拠出年金における一時金
- 個人型確定拠出年金における一時金
◆使用人から執行役員への就任に伴い退職手当等として支給される一時金
◆使用者が予告をしないで使用人を解雇する場合に支払われる解雇予告手当
◆未払賃金立替払制度に基づき国が弁済する未払賃金
退職所得控除額の計算方法
退職所得控除額の計算は以下のようになります。
勤続年数(A)が20年以下の場合
40万円 × A (80万円未満場合は80万円)
勤続年数(A)が20年超の場合
800万円 + 70万円 × (A - 20)
- 障害者となって退職した場合は、上記の金額に一律100万円を加算します。
- 退職手当等を2回以上受け取る場合などは、控除額の計算が異なることがあります。
- 勤続年数の計算
・勤続期間に1年未満の端数がある場合は、切り上げて計算します。
・長期欠勤や休職の期間も勤続年数に含まれます。
・小規模企業共済や厚生年金基金等を一時金で受け取る場合は加入期間に基づいて計算します。
退職所得の計算方法
退職所得の金額は、原則として、次のように計算します。
退職所得の金額 = (収入金額(源泉徴収される前の金額) - 退職所得控除額) × 1 / 2
- 確定給付企業年金規約に基づいて支給される退職一時金などで、従業員自身が負担した掛金等がある場合には、その支給額から従業員が負担した掛金等の金額を差し引いた残額を退職所得の収入金額とします。
- 平成25年分以降に支払われる退職手当等について、勤続年数5年以下の一定の役員等が受け取る場合、退職所得の金額は「収入金額 - 退職所得控除額」(1/2はしない)となります。
(例) 入社日 1990年4月1日 退職日 2019年6月30日(休職2ヶ月あり) 退職金 2,000万円 の場合は、 ①退職所得控除額 800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円 注)1年未満の端数は切り上げ。休職期間も含めて計算する。 ②退職所得 (2,000万円-1,500万円)×1/2 =250万円
退職手当等を2回以上受け取る場合の計算方法
転職や副業などにより、退職金を数回受け取るケースが考えられます。その際の計算方法について説明します。
同じ年に2回退職手当等を受け取るケース
退職金制度の一部を確定拠出年金に移行した場合などは、退職金とは別に、同年中に(確定拠出年金の)老齢一時金の支給を受けるケースが考えられます。この場合の勤続年数は、それぞれの勤続期間のうち、最も長い期間により計算しますが、この最も長い期間と重複していない期間は、この最も長い期間に加算します
上の図のケースでは、最も長い期間は退職一時金の30年、後から支払われた老齢一時金と重複していない期間は7ヶ月であり、勤続年数は合算して31年(1年未満切り上げ)になります。この場合、老齢一時金受給に際しての課税退職所得は、先に払われた退職一時金の金額と合算して収入金額を計算することになり、次の通りになります。
〔1,800万円(老齢一時金を合わせたその年中の収入金額)-1,570万円(勤続31年の退職所得控除額)〕×1/2=115万円(課税退職所得)
前年以前14年以内に退職手当等を受け取るケース
確定拠出年金の老齢給付は最大70歳まで受給を据え置くことができます。このため、前記のように同年中に2つ以上の退職金を受け取る場合の他、それぞれの支給年が異なる場合も発生することになります。このような場合は、後の退職金支給年において退職所得控除額の調整が図られます。確定拠出年金の老齢給付金として支給される一時金の場合は前年以前14年内、それ以外の退職手当等の受け取りの場合は4年内に退職手当等を受け取っている場合が対象となります。
このケースでは、老齢一時金の課税退職所得は、以前に受けた退職一時金の支給額が、その時の退職所得控除額以上か未満かで計算方法が異なります。
(1)退職手当が退職所得控除額以上の場合
退職一時金(1,700万円)> 退職所得控除額(1,500万円)
この場合には、老齢一時金の勤続年数に基づき計算した退職所得控除額(勤続26年)から、退職一時金の勤続期間と老齢一時金の勤続期間とが重複している期間を勤続年数とみなして計算した退職所得控除額(勤続19年)を差し引いた金額が、退職所得控除額となります。重複している期間に1年未満の端数があれば切り捨てます。
〔800万円-(1,220万円(勤続26年の退職所得控除額)-760万円(勤続19年の退職所得控除額)〕×1/2=170万円(課税退職所得)
(2)退職手当が退職所得控除額未満の場合
退職一時金(1,200万円)< 退職所得控除額(1,500万円)
この場合には、退職一時金の勤続期間の起算日から、受給した退職一時金につき下記の表により計算した期間を経過
した日の前日までを、退職一時金の勤続期間とみなして、老齢一時金の勤続期間との重複期間を計算します。計算結果に1年未満の端数があれば切り捨てます。
前の退職一時金の収入金額 | 算 式 |
800万円以下の場合 | 収入金額÷40万円 |
800万円超の場合 | (収入金額-800万円) ÷70万円+20 |
事例のケースで退職一時金が1,200万円の場合には、退職一時金のみなし勤続年数は
(1,200万円-800万円)÷70万円+20=25年
となり、勤続年数の終点は2005年3月(1980年4月から25年後)になります。
この場合、重複期間は老齢一時金の勤続年数の基点である1990年4月から2005年3月までの15年になりますの で、課税退職所得は次のようになります。
〔1,000万円- (1,220万円(勤続26年の退職所得控除額) -600万円(勤続15年の退職所得控除額)〕×1/2=190万円(課税退職所得)