介護は必ずやってくる
子どもが50代を迎えるころ、両親は70代~80代を迎えることになります。そして介護は、その程度の差こそあれ、必ず訪れることになります。もちろん自分自身も、介護が必要になる場面にいつ遭遇するかもわかりません。その時に備えて、ここではFPの視点から介護とお金に注目して解説します。
公的介護保険制度とは
公的介護保険制度は、加齢(老化)に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病などにより介護が必要となった者に対して、必要な保険医療サービスや福祉サービスに係る給付を行うことを目的に2000年(平成12年)4月からスタートしました。公的介護保険は、原則として市区町村に住所を有する40歳以上の全ての人が被保険者となり加入します。保険者は市区町村となり制度の運用を行います。
支払保険料
介護保険に必要な費用の半分については、国・都道府県・市区町村の公費で賄われ、残りの半分について被保険者が負担します。被保険者は年齢により第1号被保険者(65歳以上)と第2号被保険者(40歳以上65歳未満)に区分され保険料の算定方法が異なります。
・第1号被保険者(65歳以上)の介護保険料は、保険者(市区町村)により異なりますが、全国平均の月額保険料は5,869円(2018年度~2020年度)になります。また保険料算定には、年金(老齢・障害・遺族)の受給額などを加味した所得に応じて、原則9段階に区分された定額保険料制(基準値となる金額の最大1.7倍から最小0.3倍)が用いられますが、保険料段階の設定については市区町村が条例により独自に設定できるため、段階設定が9段階を超えたり、保険料率や所得基準は異なりますので、詳細は各市区町村のホームページなどでご確認ください。以下は標準的9段階の所得段階別の月額保険料です。
段階 | 対象者 | 保険料(例) |
第1段階 | ・生活保護を受けている人 ・世帯全員が住民税非課税で、老齢福祉年金を受けている人 ・世帯全員が住民税非課税で、本人の年金収入等が80万円以下の人 | 基準額×0.5 |
第2段階 | 世帯全員が住民税非課税で、本人の年金収入等が80万超120万円以下の人 | 基準額×0.75 |
第3段階 | 世帯全員が住民税非課税で、本人の年金収入等が が120万円超の人 | 基準額×0.75 |
第4段階 | 本人は住民税非課税(世帯には課税者はいる)で、年金収入等が80万円以下の人 | 基準額×0.9 |
第5段階 | 本人は住民税非課税(世帯には課税者はいる)で、年金収入等が80万円超の人 | 基準額×1.0 |
第6段階 | 本人は住民税課税で、合計所得金額が120万円未満の人 | 基準額×1.2 |
第7段階 | 本人は住民税課税で、合計所得金額が120万円以上190万円未満の人 | 基準額×1.3 |
第8段階 | 本人は住民税課税で、合計所得金額が190万円以上290万円未満の人 | 基準額×1.5 |
第9段階 | 本人は住民税課税で、合計所得金額が290万円以上の人 | 基準額×1.7 |
・第2号被保険者(40歳以上65歳未満)の介護保険料は、健康保険等の加入者の場合は、労使折半(組合健保は原則)で健康保険料とともに給与天引きされます。被扶養者も40歳以上になれば介護保険の被保険者となりますが原則自己負担はありません。国民健康保険の加入者については、国民健康保険料と合わせて市区町村へ納付。同一世帯に40歳以上の人がいれば人数分の納付が必要となりますが、1世帯当たりの賦課限度額の上限は16万円です。
介護保険の利用手続き
介護保険の利用手続きの流れは以下のようになります。
①介護保険の申請は、保険者(市区町村)に行います。代理・代行申請も可。
②申請により調査員が自宅を訪問して調査を行います。
③訪問調査の基本調査データに基づきコンピュータが判定(一次判定)を行います。
④市区町村は主治医に連絡を行い、主治医は医学的観点から意見書を作成。
⑤介護認定審査会で一次判定・特記事項・主治医からの意見書の資料を基に二次判定を行います。
⑥二次判定により、自立・要支援(1~2)・要介護(1~5)の振り分けが行われて、市区町村から申請者に通知されます。
⑦ケアマネージャーによる介護サービス計画(ケアプラン)が作成されます(無料)。「自立」と判定された場合は、介護保険サービスの対象外となります。
なお、一度「自立」と判定されても、その後に介護が必要な状態になれば、再度認定の申請を行うこともできます。また、認定の結果は原則として、新規認定では6ヶ月、更新認定では12ヶ月ごとに見直しが必要となるため、要介護状態が続いていれば更新の手続きが必要となります。
介護保険の給付内容
支給限度額と利用者負担割合
介護保険の給付を受ける際は、支給限度額(要介護度に応じて定められたサービス利用の上限額)までの利用負担にかかった費用の1割が原則ですが、一定以上の所得者は2割、現役並み所得者は3割となり、支給限度額を超える部分については全額利用者負担となります。
一定以上の所得者とは、合計所得金額が160万円以上でかつ、「年金収入+その他の合計所得金額」が280万円(夫婦世帯の場合は346万円)以上の者(単身者で年金収入のみの場合は280万円以上)が該当する。
現役並み所得者とは、合計所得金額が220万円以上でかつ、「年金収入+その他の合計所得金額」が340万円(夫婦世帯の場合は463万円)以上の者(単身者で年金収入のみの場合は344万円以上)が該当する。
保険給付の内容
介護保険の給付(介護サービス)には、要介護者に対する「介護給付」と要支援者に対する「予防給付」、市区町村が独自に行う「市区町村特別給付」の3つがあります。
介護給付
介護給付(介護サービス)には要介護者等が自宅などで介護を受ける居宅サービスと要介護者が指定の施設等に入所して介護を受ける施設サービスがあります。
居宅サービスを受けるには、本人の介護の必要性に応じて、介護支援専門員(ケアマネージャー)が介護サービス計画(ケアプラン)を作成します。要介護度に応じて支給限度基準額が設定されており、支給限度基準額を超えるサービスを受ける場合には、超えた分の費用は全額自己負担となります。
施設サービスは、介護保険施設である介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム、特養。生活介護中心)、介護老人保健施設(介護・リハビリ中心)、介護療養型医療施設(医療中心)などに入所して受けます。特養については、原則として要介護3以上の認定を受けていることが必要とされています。また介護療養型医療施設については、2024年度末までに廃止の方針が打ち出されており、今後は「長期療養のための医療」と「日常生活の世話(介護)」を一体とした介護療養型医療施設(介護医療院)に移管されていく予定です。
サービス内容は、施設が設定しており要介護度に応じて自己負担額が決まります。施設サービスを受けている施設入居者の食費・居住費は保険給付の対象外の為、全額自己負担です。但し、低所得者や資産額が少ない入居者については軽減措置が設けられています。
予防給付
予防給付(介護予防サービス)は、要支援者(1・2)に対して、介護状態の維持・改善を目的に行われるサービスです。市区町村に設けられた「地域包括支援センター」で保健師等によって介護予防ケアマネジメントが行われケアプランが作成されます。