50代からのライフプラン

60歳は昔と違う

会社勤めの一般サラリーマンなら、55歳を過ぎた頃から、多かれ少なかれ「定年」について考えることがあるのではないでしょうか。体力的には40代の頃に比べると、若干疲れやすくなったかな?と感じることはあっても、働けなくなる年齢では決してありません。逆に会社内では最も脂の乗り切った年齢層として会社を切り盛りする立場であるはずです。

後5年で「定年」を迎えるというのは、自分たちが若かったころに想像していた「定年」のイメージとは、余りにもかけ離れていて現実味が無いかもしれません。事実60歳は、この令和の時代では、まだまだ現役で仕事を続けることに何ら問題の無い年齢だからです。

今から約50年前の昭和45年(1970年)の日本人の平均寿命は男性が69.31歳、女性が74.66歳。それに対して、令和元年(2019年)の日本人の平均寿命は男性が81.41歳、女性が87.45歳です。つまり、この50年間で男女共に平均寿命は約12年間延びたことになります。また、65歳の平均余命を見た場合、昭和45年(1970年)では男性が12.50歳、女性が15.34歳でしたが、令和元年(2019年)では男性が19.83歳、女性が24.63歳となり約8年延びたことになります。これらのデータを見ても、自分が若かったころに感じていた定年のイメージと、現在のそのイメージと異なっていても何ら不思議ではないということです。

あなたは何歳まで働きますか

改正高年齢者雇用安定法が令和3年(2021年)4月から施行されました。これまでは定年廃止、定年延長、もしくは契約社員などでの継続雇用により、希望者全員の65歳までの雇用が義務化されていましたが、今回の改正でこれに加えて70歳までの継続雇用が努力目標として追加されました。

改正高年齢者雇用安定法について詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~:厚生労働省

しかしながら一部の企業を除き、まだまだ多くの企業は、雇用体系的には60歳が一つの区切りということには変わりありません。もちろん60歳定年をきっかけにして、今まで培った専門知識や経験を生かして更なる高収入の企業に再就職されるケースももちろんあると思いますが、現状の社会環境では、一部の優秀な人材を除いては、60歳を境に給与所得は減少することになるでしょう。また、継続雇用制度により再雇用になった場合でも、60歳までの給与から大きく減額される場合も少なくありません。

公的年金の受給が開始する65歳までは、老後資金として十分な蓄えのある方を除いては、再雇用や再就職を検討するケースは多いと思いますが、更に今後は、人生100年時代の永い老後生活を心身ともに健康に過ごすためには、70歳以上でも現役を続けることを考える必要性が近い将来出てくるでしょう。

40代で一度はライフプランを作りましょう

何はともあれ、老後生活の中で、生活資金が尽きることは避ける必要があります。その為にも60代以降のライフプラン(自分が望む人生を送るための人生設計図)は、手遅れにならないように出来れば40代から手掛けることをおすすめします。40代といえば、子供の教育費や住宅ローン返済などさまざまなお金に関する悩みを多く抱えている年代ですが、更に数十年先の定年後のライフプランまで検討しろと言われても困ってしまいますよね。実際、私も40代では老後の事なんて何も考えていなかったと思います。

人生は過去・現在・未来がつながった1本のレールの上を進んでいます。つまり、まず40代の間で行うことは、将来のライフプランのある程度のイメージ作りと現状資産の確認です。まずはそれが土台となり、その先に老後生活のライフプランが見えてくるはずです。ライフプランは、一度作成すれば終わりではなく、変更があればその都度見直すものです。40代で作成したものが完全なものである必要性はありません。大事なことは、数年に一度見直すことでブラッシュアップしていくことです。そうすれば将来の心配事もより具体的になり早く解決方法を見つけることが出来ます。

では、まず、ライフプランとは何か?から始めてみましょう。

ライフイベント表を作成しましょう

■ライフイベント表とは

家族それぞれが将来実現したい予定・目標・希望を時系列に表したものをライフイベント表といいます。このライフイベント表を作成することで、以下の内容を読み取ることが出来ます。

  • 中長期の人生設計の確認
    現在、自分が人生のどこに位置しているか確認できる。
  • 家族構成の変化の確認
    子供たちがどの時点で独立・同居。家族の人数の増減をある程度予測できる。
  • 資金の必要な時期の確認
    教育費、住宅リフォーム、老後資金など大きな資金が必要となる時期が予測できる。
  • 保障の必要な時期の確認
    家族の構成の変化やイベントに合わせた必要な保障が予測できる。
  • 退職・年金給付時の財産状況
    老後の生活資金の過不足の予測ができる。
  • 相続や贈与の時期の確認
    およその相続の発生時期や贈与が必要な時期が予測できる。

ライフイベントは大きく2つに分類されます。1つ目は、個人の意志にかかわらず時の経過と共に訪れるイベント。例えば子供の進級・進学、定年退職など。2つ目は、個人の価値観により選択できるもの。例えば持ち家の購入、マイカーの購入や買換え時期、子供の結婚資金への援助の有無など。

また視点を変えて以下のように分類することも出来ます。

  • 本人に関わるもの
    仕事に関する目標や希望(予定)、個人としての趣味や楽しみ(例えば、転職、退職、車購入など)
  • 家族に関わるもの
    家族のイベントや子供の独立(例えば、家族旅行、子供の進学・就職・結婚、家のリフォーム、親と同居など)
  • 社会に関わるもの
    社会との関わりやつながり(例えば、ボランティア活動、地域の自治会活動など)

■ライフイベント表の作成

日本FP協会のホームページに簡単で分かり易い家計チェックツールが用意されています。ライフイベント表はこちらからダウンロードできます。このライフイベント表は記入欄も少なく初心者の方でも書きやすくなっています。

出典:日本FP協会ホームページ

各項目を簡単に説明します。
「年」は西暦年。スタート年齢にもよりますが、30年くらい先まで作成しましょう。
「家族の年齢」は12月31日時点の満年齢を記入します。家族構成に合わせて列の追加・削除をしてください。
「ライフイベント」は当該年齢のイベントを記入します。複数あればそれぞれ対象者が判るように分けて記入します。
「かかるお金」は各イベント毎の現在価額での予算を記入します。教育資金や結婚資金にどれくらい必要かというのは、各ご家庭の教育方針や地域差により大きく異なりますので、政府機関や関連企業が発表している統計資料などがあれば、それらの資料を参考にして金額を算出しましょう。

ライフイベント表を作成する際は、ご自身だけでなくご夫婦またはご家族みなさんの意見を反映することが必要です。また、ライフイベント表は、一度作成したら終わりではなく、年に1回は必ず内容を確認し、それぞれのイベントについて、変化があれば、メンテナンスしましょう。

今の生活状況を整理しましょう

現状の収入・支出の状況を把握することは、これからライフプランを考える上で欠かせない作業の一つです。ここでは、

  • 年間収入
  • 年間支出
  • 年間収支
  • 家計のバランスシート

を整理することから始めましょう。

日本FP協会のホームページに簡単で分かり易い家計チェックツールが用意されていますので、これを教材にして説明したいと思います。

■年間の収入

まず「家計の収支確認表」を使って現在の収入と支出を書き出してみましょう。「家計の収支確認表」はこちらからダウンロードできます。書き方は以下を参照ください。

出典:日本FP協会ホームページ

夫・妻それぞれ年間の手取金額を記入してください。手取金額は可処分所得ともいい、給与明細の支払金額から社会保険料・所得税・住民税を差し引いた金額になります。1年間の給料明細があれば収入金額、所得税、社会保険料、住民税の合計金額を記入してください。また、源泉徴収票があれば、収入金額欄には「支払金額」、所得税欄には「源泉徴収税額」、社会保険料欄には「社会保険料等の金額」、住民税欄には(「給与所得控除後の金額」-「所得控除の額の合計額」)×10%の金額をそれぞれ記入しても結構です。

サラリーマンの主たる収入は給与収入になりますが、それ以外にも収入として以下のようなものがあります。まだ、年金を受給していなくても、定年後は主たる収入となりますので、毎年郵送されてくるねんきん定期便や会社の年金関連部署などで年金額を確認して、わかる範囲で欄外に記入しておきましょう。

  • その他の収入
    主たる収入を除く副収入で毎年発生するもの。(例:不動産収入、配当収入など)
  • 公的年金
    国民年金、厚生年金などで、受給期間が終身に及ぶもの。
  • 私的年金
    公的年金以外の私的な年金。(例:生命保険会社、共済団体などの契約による年金。他に企業年金、国民年金基金なども含む)
  • その他の継続的収入
    株式配当金、定期的に受け取る生存給付金、児童手当など一定期間継続的に発生する収入。
  • 一時的収入
    上記以外で保険満期金、解約返戻金、退職一時金など非継続的、単発的に発生する収入。

■年間支出

出典:日本FP協会ホームページ

日頃から家計簿をつけて支出内容を把握できている家庭は少ないと思いますが、この機会に以下の6項目に分類して支出金額の内訳を集計しましょう。最近はスマホを使って家計簿が作成できるアプリもありますので上手く利用してください。基本生活費だけであれば、1ヶ月分だけ入力してみて、その12倍がおよその基本生活費の年間支出額とみることもできます。

  • 基本生活費
    主に衣食等に係る費用で毎月支出が発生するもの。(例:食費、水道光熱費、通信費、保健衛生費、公共料金、小遣い、会費、通勤・通学の交通費、し好品、雑費など)
  • 住居関連費
    賃貸なら家賃や共益費、持ち家なら住宅ローンや固定資産税などの維持費、管理費、修繕積立金など住まいに係る費用。
  • 車両費
    ガソリン代・駐車場代、自動車税など自動車に係る費用。
  • 教育費
    授業料、塾代、習い事代など子どもにかかる費用。学校内外含めての総額。
  • 保険料等
    生命保険料、損害保険料(火災・自動車など)、年金保険、共済掛金など自分で契約・解約が可能な保険料の総額。
  • その他支出
    毎月は発生しないが毎年決まって発生する支出、あるいは一定期間ごとに発生する支出。(例:被服費、娯楽費、旅行費用、帰省費用、冠婚葬祭費、交際費など)
    介護保険料、健康保険料、小規模企業共済等の掛金なども含みます。

その他に、不定期・単発的に発生する支出(一時的支出)の、耐久消費財の買い替え、車の買い替え、住宅購入資金、ローンの繰上げ返済費用、改築費用、子供への資金援助(結婚資金、住宅資金など)などライフイベントに係る高額な支出については、支出が発生する時期とおよその金額を欄外に書き留めておきましょう。ここでは、今の支出状況の把握が第一優先なので、現時点ではまだ書けなくても問題ありません。

■年間収支

年間収支は年間収入-年間支出で求められます。年間収支がプラス(黒字)であればそのプラス分が貯蓄残高に加算され、逆にマイナス(赤字)であれば貯蓄残高を取り崩すことになります。但し、不定期・単発的に発生する支出(上記で整理した「一時的支出」)については毎年発生するものではないので全体の年間支出から除いて年間収支を求めます。

年間収支はキャッシュフロー分析を行う上で最も注目すべき項目です。年間収支の黒字分から家計の安定性や健全性を読み取ることが出来ます。もしこの時点で年間収支がマイナスとなるようであれば、潤沢な資産がある場合を除いて、まず年間収支をプラスにする対策が必要となります。

■家計のバランスシート

次に「家計のバランスシート」を使って現在の資産と負債を書き出してみましょう。「家計のバランスシート」はこちらからダウンロードできます。書き方は以下を参照ください。

出典:日本FP協会ホームページ
  • 資産
    預貯金等は元利合計額。株式、債券、投資信託などは作成時の時価。貯蓄性の保険は満期返戻金や解約返戻金の金額。
    土地、建物は時価または固定資産税評価額。その他資産(書画、骨董、美術品、貴金属、宝石、自動車など現金化が可能なもの)は時価を記載してください。このシートには集計結果を記載しますが、各資産の明細(金融機関名、物件名、預金種類、期間、利率、金額、面積など)も一覧にしておきましょう。
  • 負債
    自動車ローン、住宅ローン、奨学金など作成時の借入残高を記載してください。資産と同様、各負債の明細(金融機関名、用途、借入金額、期間、利率など)も一覧にしておきましょう。

家計のバランスシートの作成で資産と負債のバランス、家計資産の健全性、安全性、収益性のチェックも可能となり、今後、資産・負債の見直しをする際の判断材料となります。

定年退職以降の収支を考えましょう

少子高齢化・就業人口の減少などにより、今後は定年年齢が延長されて高齢者の活躍の場が増えてくると想像できますが、一方で年金制度については給付開始が繰り下げになる可能性も検討されています。まずは現状の定年制度や年金制度に基づいて考えてみましょう。

■退職予定年齢と退職金予想額

定年間際に混乱したいためにも、定年年齢や退職金額、再雇用制度などは、事前に社内規定等を確認しておくようにしましょう。もし60歳定年なら年金支給年齢までの収入源の検討も必要となります。

■退職後の収入

退職後の収入としては、65歳からの年金支給が柱となります。ここでは実際に年金はどれくらい受け取れるのか。また60歳以降のその他の収入について整理しておきましょう。

まず、公的年金(国民年金・厚生年金)の年金額については、毎年、日本年金機構から年金定期便(ハガキ又は封書)で、これまでの保険料納付累計額や老齢年金の受取金額などの加入状況が送られてきますので、必ず確認しましょう。但し記載されている受取金額について注意点が2点あります。

まず1点目は年金加入者の年齢で記載されている年金額の意味が異なります。50歳未満の場合は、これまでの加入実績による年金額が記載されています。そのため、今後保険料を納めることで、記載されている将来受け取る年金額は増加していきます。それに対して50歳以上の場合は、このまま60歳まで勤め続けた場合の年金見込み額が記載されています。

2点目は年金定期便に記載される年金額に含まれていない公的年金がある場合があります。公的年金はよく3階建てで表されますが、その3階部分に当たる厚生年金基金・確定給付企業年金・確定拠出企業年金など企業年金部分は年金定期便に記載される年金額には含まれていません。この部分の支給額や支給方法(一時払い、確定年金、終身年金)については会社の年金担当部門に確認しましょう。

年金の受取開始年齢と受取期間については、公的年金は受取開始年齢は通常65歳、受取期間は終身。その他の個人年金保険などについては、保険契約証から受取開始年齢と受取期間を確認しておきましょう。

これらの公的年金や企業年金以外に、会社に企業年金制度が無い場合に加入できる個人型確定拠出年金や個人で生命保険会社などで加入している個人年金保険などの受取金額も把握しておきましょう。

■退職後の支出

基本的には、(物価変動率を除けば) 生活水準・家族構成が変わらなければ、現状の支出と大きく変わることはありません。意識的に今後のことを考えて生活費を抑えたいということで低く見積もってしまいがちですが、ここでは老後においても現状の生活水準は落とさない前提で考えましょう。これからの作業(イベント表、キャッシュフロー表)の中で対策が必要となった場合に検討材料の一つとなります。また将来において家族構成の変化(子供の独立、同居者の増減など)による支出の変動も想定されますが、これらについてもライフイベント表に合わせて時系列にキャッシュフロー表の作成時に盛り込んでいくので、ここで意識することはありません。

キャッシュフロー表を作成しましょう

■キャッシュフロー表とは

ここまでで、「今の生活状況」「定年以降の生活状況」「ライフイベント」の整理が出来たと思います。これらの情報から、更に時間の流れ(年単位)に沿って集計したものが「キャッシュフロー表」となります。 キャッシュフローとはお金の流れ、つまり、一定期間の収入と支出から資金収支と、その結果増減する貯蓄残高のことです。ライフプランニングにおけるキャッシュフロー表は、現在の収支状況を基に、将来の収入金額や支出金額、貯蓄残高などを予測して1年ごとにその収支を表形式にまとめたものです。キャッシュフロー表を作成することで、収支のアンバランス、余剰資金・不足資金の額が一目でわかり、現状及び将来における問題点の把握やその改善策の検討材料となります。

日本FP協会のホームページに簡単で分かり易い家計チェックツールが用意されています。キャッシュフロー表はこちらからダウンロードできます。初心者でも簡単に記入できるようにコンパクトにまとまっていますので、このキャッシュフロー表を教材に書き方を説明します。

キャッシュフロー表の形式は、特に決まってませんが、基本的には以下の項目があれば作成できます。

キャッシュフロー表に必要な項目

  • 年次、家族構成と年齢
  • ライフイベント
  • 収入と支出
  • 年間収支と貯蓄残高
  • 変動率、運用率

■年次、家族構成と年齢

出典:日本FP協会ホームページ

「年」欄は、一番左の列に現在の西暦を入力すれば次年以降は自動計算されます。この表では20年分のキャッシュフローが作成されます。ちなみに1年は1月1日~12月31日の暦年単位です。
「家族の年齢」欄も、一番左の列に現在の年齢を入力すれば次年以降は自動計算されます。キャッシュフロー上での年齢は12月31日時点の満年齢で記入するのが一般的です。但し暦年基準で記入する場合、子どもの年齢(誕生日)と進学年の関係に留意して記入して下さい。

誕生日小学校入学中学校入学高校入学大学入学
4月2日~1月1日7歳13歳16歳19歳
1月2日~4月1日6歳12歳15歳18歳

■ライフイベント

出典:日本FP協会ホームページ

ライフイベント表を作成しましょう」で作成した「ライフイベント表」を参考にして該当年齢にイベントを記入していきましょう。イベントに伴う収入・支出については、以下の「一時的な収入」「一時的な支出」欄に記入します。

■収入と支出

出典:日本FP協会ホームページ

今の生活状況を整理しましょう」で作成した「家計の収支確認表」を参考にして経過年数ごとの年間収入金額と年間支出金額を項目別に記入します。「一時的な収入」「一時的な支出」にはライフイベントで発生する収入および支出を記入してください。

■年間収支と貯蓄残高

出典:日本FP協会ホームページ

年間収支は収入合計-支出合計から自動で計算されます。更に現在の貯蓄残高(一番左の列)には、年間収支の金額を反映した貯蓄残高(「家計のバランスシート」で作成した現金・普通預金など・定期性預金の合計金額)を記入することで、毎年の預金残高が計算されます。この預金残高が終身に渡ってプラスであれば、まずは一安心ですが、継続してマイナスとなるようであれば、収入の増加または、支出の削減について検討を行う必要があります。キャッシュフロー表を作成することで早い時点で収支の問題点を見つけることが出来れば対処方法を検討する時間が出来ます。転ばぬ先の杖の気持ちでキャッシュフロー表の作成にチャレンジしてください。