退職金の所得控除と「2回受け取り」の注意点

サラリーマンにとって、老後の運用資金、住宅ローンの繰上げ返済の資金など、退職後のライフプランにとって重要な資金源としてあてにしているのが「退職金」です。が、

一方で、

  • 退職金にも税金がかかるの?

  • 退職所得控除って何?

  • 退職金を2回受け取ると税金はどうなるの?

といったような点は、

意外と正しく理解されていません。

この記事では、退職金の所得控除の基本から、2回に分けて受け取る場合の注意点(いわゆる「5年ルール」又は「4年ルール」など)まで、ファイナンシャルプランナーの視点で分かりやすく解説します。

こんな方はこちらの記事も参考になります。

  • 退職金を2回受け取る予定がある
  • 企業型DCやiDeCoを一時金で受け取る予定がある
  • みなし勤続年数の計算方法を知りたい

「みなし勤続年数とは?退職所得控除の計算方法を事例で解説」

退職金は「退職所得」として特別扱いされる

退職金は、給与や賞与とは異なり、税法上は「退職所得」として扱われます。
これは、長年の勤務に対する報償という性格を考慮し、税負担が大幅に軽くなる仕組みが設けられているためです。

退職所得の税額計算は、次の流れで行われます。

  1. 退職金の総額を確認

  2. 退職所得控除を差し引く

  3. 残った金額の「2分の1」を課税対象とする

  4. 所得税・住民税を計算

この中でも、特に重要なのが「退職所得控除」です。

退職所得控除とは何か

退職所得控除とは、勤続年数に応じて、退職金から差し引ける非課税枠のことです。
この控除があるため、退職金は「思ったより税金が少ない」と感じる人が多いのです。

退職所得控除額の計算方法

退職所得控除額は、勤続年数によって次のように計算されます。

  • 勤続20年以下
     40万円 × 勤続年数(最低80万円)
  • 勤続20年超
     800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)

具体例

勤続35年の場合
800万円 + 70万円 × 15年 = 1,850万円

つまり、退職金が1,850万円以下であれば、原則として税金はかからないことになります。

退職所得の計算例(1回で受け取る場合)

例えば、次のケースを考えてみましょう。

  • 勤続35年

  • 退職金:2,000万円

  1. 退職所得控除:1,850万円

  2. 課税対象額:2,000万円 − 1,850万円 = 150万円

  3. 課税所得:150万円 ÷ 2 = 75万円

この75万円に対して、所得税・住民税がかかるだけです。
給与所得と比べると、極めて有利な課税方法であることが分かります。

退職金を「2回に分けて」受け取るケースとは

近年、次のようなケースが増えています。

  • A社を退職し、退職金を受け取る。数年後、B社を退職して再び退職金を受け取る。

  • 退職金以外に企業型DCや確定給付企業年金を「一時金」で受け取る

このように、退職金を複数回に分けて受け取る場合、退職所得控除の扱いに注意が必要です。

退職所得控除は「何度でも満額使える」わけではない

多くの人が誤解しがちですが、
退職所得控除は、退職金を受け取るたびに無条件で満額使えるわけではありません。

ここで重要になるのが、いわゆる「4年ルール(5年ルール)」です。

なお、2回目の退職所得控除がどのように計算されるかは、「みなし勤続年数」という考え方が重要になります。詳しい計算方法は、みなし勤続年数とは?計算方法を具体例で解説をご覧ください。

退職金を2回もらう場合の注意点(5年ルール)

5年ルールとは

会社から退職金を受け取った後、別の会社から再び退職金を受け取る場合には、「5年ルール」 (「4年ルール」とも呼ばれますが、この記事では「5年ルール」とします。)に注意が必要です。

後から退職金を受け取る年の前年以前4年以内に、別の退職金を受け取っている場合、勤続期間が重複している部分について退職所得控除の調整が行われます。

例えば、1回目の退職金を2025年に受け取り、2回目の退職金を2029年に受け取った場合、2029年の前年以前4年は2025年~2028年となるため、1回目の退職金は4年ルールの対象になります。

一方、2回の勤務期間がまったく重複していなければ、原則として重複する勤続期間がないため、退職所得控除から差し引く期間もありません。

つまり、5年ルールは「4年以内に退職金を2回受け取ったら、必ず退職所得控除が減る」という制度ではなく、一定期間内に複数の退職金を受け取った場合に、同じ勤続期間について退職所得控除を重複して使うことを防ぐためのルールと考えると分かりやすいでしょう。

具体例で見てみましょう

上の図をまとめると以下の表になります。

項目A社(1回目)B社(2回目)
就職1995年4月2019年4月
退職2025年3月2029年3月
勤続年数30年10年
退職金1,600万円400万円
退職金受取年2025年2029年

① A社の退職金

勤続30年なので、

退職所得控除

800万円+70万円×(30年-20年)
1,500万円

退職所得は、

(1,600万円-1,500万円)×1/2
50万円

となります。

② B社の退職金は4年ルールの対象

B社退職金を2029年に受け取るとすると、その「前年以前4年内」は、

2025年~2028年

です。

A社退職金を2025年に受け取っているため、4年ルールの対象です。

そして、A社とB社には6年間の勤続期間の重複があります。

③ B社の通常の退職所得控除

B社の勤続期間は10年なので、

40万円 × 10年
400万円

本来ならB社の退職金400万円と同額なので、退職所得は0円になるところです。

ところが今回は、A社との重複期間6年があります。

④ 重複期間6年分の控除を差し引く

重複期間は6年なので、その期間に対応する退職所得控除額は、

40万円 × 6年
240万円

です。

したがって、B社で使える退職所得控除は、

400万円-240万円=160万円

となります。これは国税庁が示す「本年分の勤続年数による控除額-重複期間による控除額」という計算方法です。

⑤ B社の退職所得を計算

B社退職金400万円から、調整後の退職所得控除160万円を引きます。

400万円-160万円
=240万円

通常の一般退職手当等であれば、さらに1/2を掛けて、

240万円 × 1/2=120万円

したがって、

B社の退職所得=120万円

となります。

結果をまとめると

項目A社B社
退職金1,600万円400万円
勤続年数30年10年
通常の退職所得控除1,500万円400万円
A社・B社の重複期間6年
重複期間相当の控除額240万円
実際に使える退職所得控除1,500万円160万円
退職所得50万円120万円

4年ルールは「4年以内に退職金を2回受け取ったら、必ず退職所得控除が減る」という制度ではなく、一定期間内に複数の退職金を受け取った場合に、同じ勤続期間について退職所得控除を重複して使うことを防ぐためのルールと考えて下さい。

また、1回目の退職金が退職所得控除枠を全て使い切っていない場合は「みなし勤続年数」により2回目の退職所得控除を再計算するケースもあります。詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

退職年を1年後にするとどうなるのか

上記の事例を基にB社の退職年を1年後にした場合

上の図をまとめると以下の表になります。

項目A社(1回目)B社(2回目)
就職1995年4月2019年4月
退職2025年3月2030年3月
勤続年数30年11年
退職金1,600万円400万円
退職金受取年2025年2030年
実際の勤務期間の重複6年

① A社の退職金

前回と同様、退職所得は50万円です。

② B社の退職金は4年ルールの対象外

B社の退職金を2030年に受け取ります。

2030年から見た「前年以前4年内」は、

2026年1月~2029年12月

です。

A社退職金を受け取ったのは2025年です。

したがって、

2025年は「前年以前4年内」に入らない
→ 4年ルールの対象外

となります。

③ 勤務期間は6年重複しているが、控除調整しない

A社とB社の勤務期間を見ると、

A社:1995年4月~2025年3月
B社:2019年4月~2030年3月

なので、

2019年4月~2025年3月=6年間

重複しています。

しかし、今回はA社退職金が「前年以前4年内」の退職金ではありません。

したがって、この6年間の重複を理由とする退職所得控除の調整は行いません。

④ B社の退職所得控除

B社の勤続年数は11年なので、

40万円×11年=440万円

です。

4年ルールによる調整がないため、この440万円をそのまま退職所得控除として使えます。

B社の退職金は400万円なので、

400万円-440万円<0

したがって、

B社の退職所得=0円

となります。

結果をまとめると

項目A社B社
退職金1,600万円400万円
勤続年数30年11年
通常の退職所得控除1,500万円440万円
実際の重複期間6年
4年ルール対象外
重複期間による控除調整なし
適用できる退職所得控除1,500万円440万円
退職所得50万円0円

今回の事例では、「勤務期間が6年間重複していても、1回目の退職金が「前年以前4年内」に入らなければ、4年ルールによる退職所得控除の重複調整は行われない。」ケースを解説しましたが、退職金の時期を1年ずらすというのは一般サラリーマン向けとしては、少し相応しくないかもしれませんが、退職金をDCやiDeCoに置き換えてみていただければ思います。

企業型DC・確定給付年金との関係にも注意

退職金とは別に、

  • 企業型確定拠出年金(DC)
  • 確定給付企業年金(DB)

を「一時金」で受け取る場合も、退職所得として扱われることがあります。

そのため、

  • 退職金

  • DC一時金

の受給時期が近いと、上記の事例のように勤続年数(加入年数)の調整を行う可能性があります。

老後資金の受け取り方を考える際は、「金額」だけでなく「受け取るタイミング」が極めて重要です。

実際には「みなし勤続年数」の計算や、受取時期(5年ルール・10年ルール・20年ルール)によって税額が変わることがあります。具体的な計算方法は以下の記事で詳しく解説しています。

チェック

  • 先に退職金等を受け取り、その後企業型DCなどの一時金を受け取る場合は、「20年ルール」が適用されます。
  • 先に企業型DCなどの一時金を受け取り、その後退職金等を受け取る場合は以下のルールが適用となります。
    • 企業型DCなどの一時金の受け取りが令和7年12月31日以前の場合は、「5年ルール
    • 企業型DCなどの一時金の受け取りが令和8年01月01日以降の場合は、「10年ルール
  • 上記以外のケースは「5年ルール」が適用されます。

退職金の受け取り方は「事前の設計」が重要

退職金は、受け取った後に「やっぱり失敗だった」と思っても、
やり直しがきかないお金です。

特に、

  • 複数社から退職金を受け取る予定がある

  • DCやiDeCoを一時金で受け取る予定がある

という方は、
退職所得控除の使い方を含めた全体設計が欠かせません。

まとめ:退職金の所得控除を最大限活かすために

  • 退職金は「退職所得」として優遇されている

  • 退職所得控除は勤続年数に応じて大きくなる

  • 退職金を2回に分けて受け取る場合は要注意

  • DC・企業年金の一時金も含めて考える必要がある

退職金は、人生最大級の「税務判断」が必要なお金です。
正しい知識を持ち、計画的に受け取ることが、老後の安心につながります。

まずは、退職金の税金はいくら?AIで簡単診断|DC・iDeCo対応 で確認できます。