退職金の10年ルールとは?企業型DCとの関係をわかりやすく解説

退職金は税制上大きく優遇された所得であり、多くの場合はそれほど大きな税金がかかりません。
その理由は、退職金には 退職所得控除2分の1課税 といった特別な税制があるためです。

しかし、退職金を複数回受け取る場合には注意が必要です。

特に重要なのが、いわゆる 「10年ルール」 (「9年ルール」とも呼ばれますが、この記事では「10年ルール」とします。)です。

例えば次のようなケースがあります。

  • 先に「企業型確定拠出年金(DC)の一時金」を受け取り、その後の年に「退職金」を受け取る
  • 先に「個人型確定拠出年金(iDeCo)の一時金」を受け取り、その後の年に「退職金」を受け取る

注釈:①②の先に受け取る一時金の受取時期が2025年以前の場合は、5年ルールが適用されます。

このように退職所得を複数回受け取る場合、受け取りのタイミングによっては 勤続年数(又は加入期間)の調整により退職所得控除が十分に使えなくなる可能性があります。

この記事では、退職金税制の重要なポイントである「5年ルール」について、ファイナンシャルプランナーの視点でわかりやすく解説します。

退職金には退職所得控除がある

まず前提として、退職金には 退職所得控除 という大きな非課税枠があります。

退職所得控除は、勤続年数によって次のように計算されます。

勤続20年以下

40万円 × 勤続年数
(最低80万円)

勤続20年超

800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)

例えば勤続35年の場合は次のようになります。

800万円

70万円 × 15年

1,850万円

つまり、退職金が1,850万円以下であれば、原則として所得税・住民税はかかりません。

このように退職金には大きな控除があるため、税負担は軽くなる仕組みになっています。

退職所得の計算方法

退職金の税金は、次の手順で計算します。

①退職金から退職所得控除を差し引く
②残った金額の2分の1を課税所得とする
③所得税・住民税を計算

この 2分の1課税 によって、税負担はさらに軽くなります。

10年ルールとは

10年ルール(9年ルール)とは

DC・iDeCoの一時金を受け取った後に退職金を受け取る場合、退職金を受け取る年の前年以前9年内にDC・iDeCoの一時金を受け取っていると、加入期間と勤続期間の重複部分について退職所得控除が調整されるルールです。

主な10年ルールの対象となるケースは、次の組み合わせです。

  • 先に「企業型確定拠出年金(DC)の一時金」を受け取り、その後の年に「退職金」を受け取る
  • 先に「個人型確定拠出年金(iDeCo)の一時金」を受け取り、その後の年に「退職金」を受け取る

つまり、10年ルールに該当する場合は、退職所得控除を 毎回満額使えるわけではない ということです。

もし該当期間内で退職金を複数回受け取ると、勤続年数(加入期間)の重複期間の調整により、2回目の退職金では控除がほとんど使えない可能性があります。

チェック

先に企業型DCなどの一時金を受け取り、その後退職金等を受け取る場合は以下のルールが適用となります。

  • 企業型DCなどの一時金の受け取りが令和7(2025)年12月31日以前の場合は、「5年ルール
  • 企業型DCなどの一時金の受け取りが令和8(2026)年01月01日以降の場合は、「10年ルール」

なぜ10年という期間なのか

背景には、DC・iDeCoの受取時期と会社の退職時期の関係があります。たとえば、

60歳でiDeCo・DCを一時金で受取

65歳で会社を退職して退職金を受取

という受け取り方なら、2025年までの旧制度では5年程度ずらすことで、重複期間の調整を回避が可能でした。

2026年からは、

DC・iDeCo → 会社退職金

について調整対象期間を「前年以前9年内」に広げることで、こうした比較的短い期間を空けて同じ期間に対応する退職所得控除を再び利用することを抑える仕組みになった、と理解するのが適切です。財務省の改正内容でも「勤続期間等の重複排除の特例」の対象期間を9年内へ拡大したものと位置付けています。

具体例で考えてみる

例えば次のようなケースを考えてみます。

上の図をまとめると以下の表になります。

項目DC(1回目)A社退職金(2回目)
A社就職1996年4月
DC加入開始2011年4月
DC加入終了2026年3月
A社退職2031年3月
加入・勤続期間15年35年
一時金・退職金500万円2,000万円
受取年2026年2031年
加入期間と勤続期間の重複15年

① 1回目のDC一時金

DCの加入期間は15年なので、本来の退職所得控除額は、

40万円 × 15年 = 600万円

です。

DC一時金は500万円なので、

500万円 < 600万円

となり、

DCの退職所得=0円

です。

ただし、この「500万円<600万円」が、後の計算で重要になります。


② 2031年のA社退職金は「9年ルール(10年ルール)」の対象

A社退職金を2031年に受け取ります。

2031年から見た「前年以前9年内」は、

2022年~2030年

です。

2026年に受け取ったDC一時金はこの範囲に入ります。

さらに、2026年1月1日以後に受け取ったDC一時金なので、新しい9年ルールの対象です。

したがって、

10年ルールの対象 → DC加入期間とA社勤続期間の重複を確認

となります。


③ DCとA社の期間は15年間重複している

実際の期間を見ると、

A社
1996年4月~2031年3月

DC
2011年4月~2026年3月

です。

したがって、実際の重複期間は、

2011年4月~2026年3月=15年

です。

ただし、今回はこの15年をそのまま控除調整に使いません。

理由は、DC一時金500万円が、本来のDC退職所得控除600万円を下回っているからです。

前に受け取った退職手当等がその退職所得控除額に満たない場合、実際の期間ではなく、一時金額から計算したみなし勤続期間を使って重複期間を計算します。


④ DCの「みなし勤続期間」を計算

DC一時金は500万円です。

800万円以下なので、

500万円 ÷ 40万円 = 12.5年

1年未満を切り捨てて、

みなし勤続年数=12年

となります。

したがって、実際のDC加入期間15年全部ではなく、

2011年4月から12年間
→ 2011年4月~2023年3月

を、税制上のDC加入期間とみなして重複期間を計算します。

A社にはこの12年間すべて勤務しています。

したがって、

税制上の重複期間=12年

となります。


⑤ A社の通常の退職所得控除

A社の勤続期間は35年です。

したがって、

800万円+70万円×(35年-20年)

=800万円+1,050万円

1,850万円

です。


⑥ 重複期間12年分を調整

重複期間12年に対応する退職所得控除額は、

40万円×12年=480万円

です。

したがって、A社で使える退職所得控除は、

1,850万円-480万円
=1,370万円

となります。


⑦ A社の退職所得を計算

A社退職金は2,000万円です。

2,000万円-1,370万円
=630万円

一般退職手当等として1/2課税を適用すると、

630万円×1/2=315万円

したがって、

A社の退職所得=315万円

となります。

最終結果

項目DCA社
一時金・退職金500万円2,000万円
実際の加入・勤続年数15年35年
通常の退職所得控除600万円1,850万円
実際の重複期間15年
DCのみなし加入期間12年
税制上の重複期間12年
重複期間相当の控除額480万円
実際に使える退職所得控除600万円1,370万円
退職所得0円315万円

10年ルールは「9年以内に退職金を2回受け取ったら、必ず退職所得控除が減る」という制度ではなく、一定期間内に複数の退職金を受け取った場合に、同じ勤続期間について退職所得控除を重複して使うことを防ぐためのルールと考えて下さい。

今回の事例のように、1回目のDCやiDeCoの一時金受取額が退職所得控除枠を全て使い切っていない場合は「みなし勤続年数」により2回目の退職所得控除を再計算するケースもあります。詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

組み合わせて受け取る場合は、受給タイミングの設計によって税額が変わることがあります。

まとめ

退職金の10年ルールのポイントを整理すると次の通りです。

  • DC・iDeCoの一時金を先に受け取り、その後に会社の退職金を受け取る場合に関係するルール
  • 2026年1月1日以後にDC・iDeCoの一時金を受け取った場合、後の退職金について「前年以前9年内」が調整対象となる
  • 一般に「10年ルール」と呼ばれるが、税法上は「前年以前9年内」という考え方
  • 9年内にDC・iDeCo一時金を受け取っていても、退職所得控除がすべて使えなくなるわけではない
  • DC・iDeCoの加入期間と、会社の勤続期間が重複している部分について退職所得控除を調整する
  • 先に受け取ったDC・iDeCo一時金がその退職所得控除額より少ない場合は、「みなし勤続期間(加入期間)」を計算して重複期間を判定する

つまり10年ルールは、DC・iDeCoと会社の退職金について、同じ勤務・加入期間に対応する退職所得控除を重複して利用することを調整するためのルールです。

退職金は人生の中でも最大級の資金になることが多く、税制の理解は非常に重要です。
特に企業型DCやiDeCoを利用している場合は、退職金と年金制度の受け取りタイミングを含めたライフプラン設計を考えることが大切になります。