第10回 キャッシュフロー表の退職金を入力しよう

前回は、子どもの進学予定を整理して、年ごとの教育費をキャッシュフロー表へ入力しました。

今回は、50代からのライフプランで特に大きな収入となる「退職金」を入力していきます。

50代になると、

「退職金はいくらくらいもらえるのだろう」

「企業型DCもあるけれど、退職金と一緒に入力するの?」

「退職金は住宅ローン返済に使った方がいいの?」

といったことも気になってくると思います。

ただし、今回もまだ退職金の使い方を決める段階ではありません。

この講座では、第13回までが「入力編」です。

まずは、

現在予定している退職金の金額と受取時期を、そのままキャッシュフロー表へ入力する

ことを優先しましょう。

退職金の税金や企業型DCとの受け取り方については、当サイトでも別の記事で詳しく解説しています。退職金とDCを別々に一時金で受け取る場合には、受取時期によって退職所得控除の扱いが変わることがあります。

今回はそうした制度の詳しい説明には踏み込まず、「キャッシュフロー表にどう入れるか」に集中して進めます。

今回も具体的な家族を例に入力してみよう

これまでと同じように、具体的な家庭を設定して考えてみましょう。

ここでは、2026年現在、次のような家庭とします。

項目設定
夫・春夫さん50歳
妻・夏子さん45歳
春夫さんの定年60歳
定年後65歳まで再雇用
会社からの退職金1,500万円
企業型DC300万円
DCの受取予定70歳・一時金

春夫さんは現在50歳です。

60歳でいったん定年を迎え、その後65歳まで再雇用で働くことにしましょう。

会社からの退職金は、

60歳で1,500万円

受け取る設定とします。

さらに、企業型DCがあり、

70歳で300万円を一時金として受け取る

ことにしましょう。

ここでポイントになるのが、

会社の退職金と企業型DCは、必ずしも同じ年に受け取るとは限らない

ということです。

キャッシュフロー表では、実際にお金を受け取る予定の年に分けて入力します。

まず勤務先の退職金制度を確認しよう

自分のキャッシュフロー表を作る場合は、まず勤務先の退職金制度を確認してみましょう。

会社によって退職金制度は異なります。

例えば、

・会社から直接支給される退職一時金
・確定給付企業年金(DB)
・企業型確定拠出年金(企業型DC)

などがあります。

複数の制度を組み合わせている会社もあります。

退職金の見込額については、会社の退職金規程、社内サイト、退職金の見込額通知、人事・総務部門などで確認できる場合があります。

50代であれば、定年までの期間もかなり具体的になってきますので、一度確認しておくとキャッシュフロー表の精度も上がります。

もし正確な金額がまだ分からなくても、

「現時点では1,500万円くらいになりそう」

という見込額で構いません。

将来、実際の金額が分かったときに修正すればよいからです。

春夫さんの退職金を入力してみよう

それでは、春夫さんの退職金をキャッシュフロー表へ入力してみましょう。

2024年現在50歳なので、60歳になるのは2034年です。

ここでは、

2034年に退職金1,500万円を受け取る

設定とします。

したがって、キャッシュフロー表では、

春夫さんの年齢内容金額
2033年59歳0万円
2034年60歳退職金1,500万円
2035年61歳0万円

という形になります。

給与のように毎年入ってくる収入ではありません。

受け取る年だけ1,500万円を入力する

のがポイントです。

これは前回の教育費で、「教育費総額」ではなく各年の支出額を入力した考え方と同じです。

キャッシュフロー表では、

「全部でいくらか」

だけでなく、

「何年に、いくらのお金が動くのか」

が重要になります。

企業型DCは退職金と分けて考えよう

次に企業型DCです。

今回の春夫さんには、企業型DCが300万円ある設定としましょう。

ただし、60歳の会社退職金と同じ年には受け取りません。

ここでは、

70歳で300万円を一時金として受け取る

ことにします。

春夫さんが70歳になるのは2044年です。

したがって、

年齢内容金額
2036年60歳会社の退職金1,500万円
2046年70歳企業型DC一時金300万円

というように入力します。

こうすると、

「60歳に大きな退職金が入り、10年後にDCの一時金が入る」

というお金の流れがキャッシュフロー表上で見えるようになります。

企業型DCを一時金で受け取る場合、税制上は退職所得として扱われることがあり、会社の退職金との受取時期によって税金の計算に影響する場合があります。当サイトでも、退職金とDCの同時受取・分割受取や、みなし勤続年数について別の記事で詳しく解説しています。

ただし、今回は、

「70歳受取が一番得だから70歳にする」

という意味ではありません。

あくまで今回のキャッシュフロー表では、70歳で受け取る設定にしている

ということです。

税金も含めて受取時期を変更するかどうかは、キャッシュフロー表が完成した後に検討します。

退職金とDCを一つにまとめない

今回の例で、

退職金1,500万円

企業型DC300万円

1,800万円

だからといって、

「60歳に退職金1,800万円」

と入力してはいけません。

実際のお金の流れは、

60歳 1,500万円

そして、

70歳 300万円

だからです。

この10年間の違いは、老後のキャッシュフローを考えるうえで大きな意味があります。

例えば60代には、

再雇用の給与
住宅ローン
生活費

などがあります。

70代になると、

公的年金
生活費
住宅修繕
旅行など

お金の入り方・出方が変わっていきます。

そのためキャッシュフロー表では、

受取総額ではなく受取時期を正しく入力する

ことが大切です。

一時金で受け取る場合は受取年にまとめて入力する

今回の退職金1,500万円と企業型DC300万円は、どちらも一時金で受け取る設定です。

一時金の場合は簡単です。

その年に受け取る金額を、そのまま入力します。

例えば、

2034年 退職金1,500万円

2044年 企業型DC300万円

という形です。

一方、年金形式で受け取る場合は考え方が変わります。

年金形式で受け取る場合は毎年の受取額を入力する

企業型DCやiDeCoなどでは、制度によって年金形式で受け取れる場合があります。

例えば、仮に300万円を10年間に分けて受け取るとします。

単純化して毎年30万円受け取るなら、

70歳 30万円
71歳 30万円
72歳 30万円
……
79歳 30万円

というように、毎年の受取額を入力します。

キャッシュフロー表で大切なのは、

実際にその年の家計へ入ってくる金額

です。

一時金であれば一度に入力し、年金なら受取期間に分けて入力する。

この考え方を覚えておきましょう。

iDeCoを利用している場合は?

今回の春夫さんの例では、iDeCoは設定していません。

ただし、ご自身がiDeCoを利用している場合は、企業型DCと同じように、

「何歳から受け取る予定なのか」

「一時金で受け取るのか、年金として受け取るのか」

を確認して、キャッシュフロー表へ反映します。

ここでも、

「一時金と年金のどちらが得か」

を今回決める必要はありません。

まずは現在考えている受取方法で入力しましょう。

退職金、企業型DC、iDeCoを複数回に分けて一時金として受け取る場合には、退職所得控除の調整などが関係する場合があります。その詳しい仕組みについては、当サイトの退職金関連記事を参考にしてください。

税金はどう考える?

退職金を入力するときに、

「税引前の金額を入れるの?」

「税引後の金額を入れるの?」

と迷うかもしれません。

キャッシュフロー表は、実際に生活に使えるお金の流れを見るものなので、最終的には実際の手取り額に近い金額で入力できるのが理想です。

ただし、退職金の税金は、

勤続年数
退職金額
企業型DCやiDeCoの受取時期
過去の退職金の受取状況

などによって変わることがあります。

退職所得控除や複数回受け取りの仕組みまで今回説明すると、「キャッシュフロー表を作る」という本来の目的から外れてしまいます。

そこで、まだ税引後金額が分からない場合は、

まず現在分かっている退職金見込額で入力しておき、必要に応じて後から修正する

方法で構いません。

当サイトには退職金の税金や退職所得控除、DCとの受け取り方を詳しく説明した記事がありますので、必要に応じて確認してください。

退職金1,500万円が入ると安心してしまう?

春夫さんのキャッシュフロー表に2034年の退職金1,500万円を入力すると、その年の収入は大きく増えます。

数字だけを見ると、

「1,500万円も入るなら老後は大丈夫そうだ」

と思うかもしれません。

しかし、まだ判断はしません。

春夫さんの場合、退職後も、

生活費
住宅ローン
固定資産税や住宅修繕費
車の維持費や買い替え
旅行費

などの支出が続きます。

さらに、現役時代の給与収入はいずれなくなり、公的年金などを中心とした生活へ変わっていきます。

退職金を受け取った瞬間の資産額だけを見ても、

そのお金が老後まで持つかどうかは分かりません。

これを確認するのがキャッシュフロー表です。

退職金で住宅ローンを返すかは、まだ考えない

春夫さんの例では、退職金を受け取った後も住宅ローン返済が続く設定になっています。

すると、

「退職金1,500万円が入るのなら、住宅ローンを繰上返済した方がいいのでは?」

と考えたくなるかもしれません。

しかし、今回は繰上返済しません。

第8回でも、住宅ローンについては、

まず現在の返済予定をそのまま入力する

ことにしました。

ここで退職金を使って住宅ローンを返してしまうと、入力途中でライフプランを変更することになります。

住宅ローンを返済すれば、その後の返済額は減ります。

一方、退職金を使えば、手元の金融資産も減ります。

どちらがよいのかは、

住宅ローン
退職金
年金
生活費
金融資産残高

を全部並べてからでなければ判断できません。

住宅ローンを見直すのは、第18回の「改善編」で行います。

DCの受取時期も今は変更しない

同じように、

「70歳ではなく、もっと早くDCを受け取った方がよいのでは?」

と考えることもあるでしょう。

反対に、

「税金を考えれば受け取りをもっと遅らせた方がよいのでは?」

と思うかもしれません。

この判断も今は保留します。

当サイトでは、退職金とDCの受取順序や受取時期によって税負担が変わるケースについて具体的なシミュレーションを掲載しています。

しかし、税金だけで受取時期を決めればよいわけでもありません。

老後のお金には、

「何歳のときに、どれくらいの資金が必要なのか」

という問題もあるからです。

今回のサンプルでは、

70歳でDC300万円を受け取る

という現在の設定を、そのまま入力します。

受取時期を変更したときキャッシュフローがどう変わるかは、改善編で比較すればよいのです。

今回の入力内容を確認しよう

今回、春夫さんのキャッシュフロー表に追加した主な内容は次の2つです。

年齢内容金額
2034年60歳会社の退職金1,500万円
2044年70歳企業型DC一時金300万円

ここで覚えておきたいのは、

退職金やDCの総額をまとめて入力するのではなく、実際に受け取る予定の年へ入力する

ことです。

これで、50歳から老後までのお金の流れがまた一つ具体的になりました。

退職金を入力しても、まだ家計の良し悪しは判断しない

ここまでキャッシュフロー表には、

家族構成
ライフイベント
給与収入
生活費などの支出
住宅ローン
教育費
退職金
企業型DC

が入ってきました。

だいぶ将来のお金の流れが見えるようになってきました。

それでも、まだキャッシュフロー表は完成していません。

特に老後を考えるうえで大きく欠けているのが、

公的年金などの老後収入

です。

60歳で退職金1,500万円を受け取ったとしても、その後どれくらいの年金が入り、生活費との差額がいくらになるかによって金融資産の減り方は大きく変わります。

ですから、退職金を入力しただけで、

「老後資金は十分」

「不足している」

と判断しないようにしましょう。

次回は年金・老後の収入を入力しよう

次回は、

「第11回 年金・老後の収入を入力しよう」

です。

春夫さんの場合は、60歳で定年を迎えた後も65歳まで再雇用で働く設定です。

さらに、その後は、

公的年金
企業年金
個人年金

などの収入が始まります。

次回は、

「何歳から、年間いくら入ってくるのか」

を一つずつ整理して、キャッシュフロー表へ入力していきます。

第10回では退職金という「一時的な大きな収入」を入力しました。

第11回では、年金などの「老後に継続して入ってくる収入」を入力します。

この2つが同じ時間軸に並ぶと、定年後のお金の流れがさらに見えやすくなってきます。

ただし、第13回で基本のキャッシュフロー表が完成するまでは、まだ改善はしません。

まずは、現在考えているライフプランをそのまま数値にしていきましょう。