第18回 住宅ローンを見直すとキャッシュフローはどう変わる?
前回は、春夫さん一家のキャッシュフロー表を使って、家計を改善するときの基本的な考え方を確認しました。
今回からは、実際に一つずつ改善できる項目を検討していきます。
最初に取り上げるのは、住宅ローンです。
50代になると、
「退職までに住宅ローンを完済した方がいいのか」
「退職時にまとまったお金が入ったら、繰り上げ返済した方がいいのか」
「住宅ローンを残したまま老後を迎えて大丈夫なのか」
と考えることもあるでしょう。
春夫さん一家も、退職後まで住宅ローン返済が続く設定になっています。
それなら、60歳前後で住宅ローンを繰り上げ返済すれば、老後のキャッシュフローを改善できるのでしょうか。
今回は、住宅ローンだけを見るのではなく、金融資産も含めた家計全体から考えてみます。
第8回では住宅ローンの「現状」を入力した
この講座では、第8回「住宅ローンを入力しよう」で、春夫さん一家の住宅ローンをキャッシュフロー表に入力しました。
そのときは、
住宅ローン残高
年間返済額
金利
残りの返済期間
完済予定年齢
など、現在の住宅ローンの状況を整理しました。
ただし、第8回では、
「繰り上げ返済をした方がいいのか」
「退職までに完済した方がいいのか」
といった判断はしていません。
なぜなら、その段階では教育費や退職後の収入、金融資産の推移など、家計全体がまだ見えていなかったからです。
住宅ローンだけを見て、
「借金は少ない方がいいから、できるだけ早く返そう」
と判断するのではなく、キャッシュフロー表が完成してから考えることにしていました。
そして今、春夫さん一家の将来の家計が見えるようになりました。
ここで改めて住宅ローンを検討してみましょう。
春夫さん一家は退職後も住宅ローンが残る
春夫さん一家は、2026年時点で、
春夫さん 50歳
夏子さん 45歳
秋菜さん 15歳
冬樹さん 13歳
という4人家族です。
このサンプルは、キャッシュフロー表を使って改善方法を考えられるように、あえて少し厳しめの家計設定にしています。
子ども2人の教育費がかかり、住宅ローンの返済も続きます。
さらに、春夫さんが60歳で定年を迎えたあとも住宅ローンは残ります。
一方、第16回で金融資産残高を確認したところ、現在の条件のままでは、老後に金融資産が減少し、73歳で0円を下回る結果になりました。
そこで、
「退職後の住宅ローンをなくせば、老後の家計が改善するのではないか」
と考えるのは自然でしょう。

まず考えたいのが「繰り上げ返済」
住宅ローンを見直す方法の一つが、繰り上げ返済です。
手元の金融資産を使って住宅ローンの元金を減らせば、その後に支払う利息を減らすことができます。
また、返済方法によっては、
返済期間を短くする。
毎回の返済額を減らす。
といった効果も期待できます。
春夫さん一家の場合、60歳前後にはまとまった一時金を受け取る設定になっています。
そのため、
「このお金を使って住宅ローンを完済してしまえばいいのでは?」
という考え方もできます。
そこで、春夫さん一家について繰り上げ返済を検討してみます。
春夫さん一家では繰り上げ返済の効果が小さい
春夫さん一家の住宅ローンは、比較的低い金利で借りている設定です。
また、60歳を過ぎるころには、住宅ローンの返済も終盤に入っています。
住宅ローンは返済が進むにつれて残高が減っていくため、この段階から完済までに支払う利息は、借入当初に比べれば少なくなっています。
そのため、60歳を過ぎてからまとまった金額を使って全額繰り上げ返済をしても、
削減できる将来の利息は、それほど大きくありません。
もちろん、繰り上げ返済をすれば住宅ローン自体はなくなります。
しかし、
「まとまった金融資産を使う割には、減らせる利息がそれほど大きくない」
というのが、春夫さん一家の住宅ローンの特徴です。
ここは、今回の改善策を考えるうえで重要なポイントになります。
繰り上げ返済すると手元のお金も減る
もう一つ忘れてはいけないのが、金融資産です。
仮に住宅ローンを全額繰り上げ返済すると、その後の住宅ローン返済はなくなります。
一方、その返済に使った分だけ、
手元の金融資産は減ります。
春夫さん一家の場合、第16回で確認したように、老後の金融資産にはそれほど余裕がありません。
65歳以降は年間収支の赤字が続き、現在の設定では73歳で金融資産が0円を下回ります。
そのような家計で、まとまった金融資産を住宅ローンの完済に使うと、
住宅ローンはなくなっても、老後の生活に使える手元資金が大きく減る
ことになります。
住宅ローン残高だけを見れば改善したように見えても、家計全体では必ずしも大きな改善になるとは限りません。
「利息を減らす効果」と「手元資金を残す意味」を比べる
ここで、春夫さん一家の状況を整理してみましょう。
繰り上げ返済をすれば、
住宅ローン残高が減る
将来支払う利息を減らせる
完済すれば、その後の住宅ローン返済がなくなる
というメリットがあります。
一方で、
繰り上げ返済した分だけ金融資産が減る
という面があります。
そして春夫さん一家では、
低金利で、すでに返済終盤に入っているため、これから支払う利息が比較的少ない
という条件があります。
つまり、
まとまった金融資産を使う
↓
住宅ローンを完済する
↓
将来支払う利息は減る
↓
しかし、その削減効果はそれほど大きくない
↓
一方で、老後に使える金融資産は減る
という関係になります。

このように整理すると、春夫さん一家では、
「住宅ローンが残っているから、とにかく完済する」
という方法が必ずしも優先順位の高い改善策ではないことが見えてきます。
住宅ローンは「金利」だけで判断しない
ここで注意したいのが、
住宅ローン金利だけを見て判断しない
ということです。
例えば、
「住宅ローン金利が低いから返さなくていい」
と単純に判断することもできません。
住宅ローンを抱えていること自体に心理的な負担を感じる人もいます。
退職後の毎月の支出を少なくしたいという考え方もあるでしょう。
反対に、
住宅修繕費に備えたい。
医療や介護に備えたい。
生活予備資金を多めに残したい。
という人なら、金融資産を手元に残すことにも意味があります。
つまり、繰り上げ返済を考えるときには、
金利
だけではなく、
残りの返済期間
これから支払う利息
繰り上げ返済後に残る金融資産
退職後の年間収支
まで一緒に確認する必要があります。
春夫さん一家では「繰り上げ返済を優先しない」
ここまで検討した結果、春夫さん一家については、
60歳を過ぎた段階で、まとまった金融資産を使って住宅ローンを全額繰り上げ返済する優先度は高くない
と考えることにします。
理由はシンプルです。
住宅ローンが低金利であること。
すでに返済終盤に入っていること。
そのため、繰り上げ返済によって削減できる将来の利息が限定的であること。
そして何より、
春夫さん一家では老後の金融資産を確保する必要があること
です。
そこで今回のキャッシュフロー改善では、
住宅ローンは現在の返済を続け、まとまった金融資産を手元に残す
ことにします。
つまり、第18回ではキャッシュフロー表の住宅ローン条件を大きく変更しません。
一見すると、
「改善編なのに何も改善していない」
ように見えるかもしれません。
しかし、これもキャッシュフロー表を使う大切な意味の一つです。
「変更しない」という判断もキャッシュフロー改善
第17回では、
改善策を一つずつ検討する
ことを確認しました。
これは、すべての項目を必ず変更するという意味ではありません。
検討した結果、
「ここは変更しない」
と判断することもあります。
春夫さん一家の場合、
住宅ローンを確認する
↓
繰り上げ返済を検討する
↓
削減できる利息を確認する
↓
手元の金融資産が減る影響を考える
↓
今回は繰り上げ返済を優先しない
という判断になりました。
これも立派なキャッシュフロー分析です。
むしろ、キャッシュフロー表を作らず、
「50代だから住宅ローンは退職までに返しておこう」
と考えてまとまった金融資産を使ってしまうと、老後の資金計画に影響する可能性があります。
家計全体を見たうえで、
どこを変えるのかだけではなく、どこを変えないのかを決める。
これも改善作業の一つです。
住宅ローンの繰り上げ返済が有効なケースもある
もちろん、今回の結論がすべての家庭に当てはまるわけではありません。
例えば、
住宅ローン金利が高い。
返済期間が長く残っている。
退職後の住宅ローン返済額が家計を大きく圧迫している。
繰り上げ返済しても十分な金融資産を残せる。
といった場合には、繰り上げ返済による改善効果が大きくなる可能性があります。
反対に、春夫さん一家のように、
低金利である。
返済終盤である。
老後の手元資金に余裕がない。
という場合には、繰り上げ返済の優先順位が下がることもあります。
つまり、
「50代なら繰り上げ返済した方がいい」という共通の答えがあるわけではありません。
自分の住宅ローンとキャッシュフローの両方を見ることが大切です。
借り換えについても同じように考える
住宅ローンの見直しには、繰り上げ返済だけでなく借り換えもあります。
現在より低い金利の住宅ローンに借り換えることができれば、返済額を減らせる可能性があります。
ただし、借り換えには手数料などの諸費用がかかります。
さらに、春夫さん一家のように、すでに低い金利で借りていて返済期間も短くなっている場合、
借り換えによる効果も限定的になる可能性があります。
そのため、
金利が少し低くなる
という理由だけではなく、
借り換えにかかる費用を含めて、最終的にどのくらい返済額が減るのか
を確認する必要があります。
ここでも、
効果が小さいのであれば、無理に変更しない
という判断があります。
変動金利なら金利上昇の影響は確認しておく
ただし、春夫さん一家の住宅ローンについて、もう一つ確認しておきたいことがあります。
変動金利で借りている場合です。
現在の金利が低くても、将来も同じ金利が続くとは限りません。
金利が上昇すれば、将来の返済負担が増える可能性があります。
そのため、
現在の返済条件なら繰り上げ返済を優先しない
という判断をしたとしても、金利が大きく変化した場合には、もう一度キャッシュフロー表を見直します。
大切なのは、
将来の金利を予想することではありません。
金利や返済額が変わったときに、
自分の家計がどの程度影響を受けるのか
を確認することです。
キャッシュフロー表は、一度作って終わりではありません。
条件が変わったときに更新して使います。
今回は住宅ローンでは改善しない
春夫さん一家の改善前のキャッシュフローでは、73歳で金融資産が0円を下回ります。
住宅ローンを確認した結果、
今回は住宅ローンを大きく変更しない
という判断になりました。
したがって、この段階では資産枯渇年も73歳のままです。
しかし、これは改善に失敗したわけではありません。
住宅ローンについて、
「ここにまとまった金融資産を投入するより、別の改善策を検討した方がよさそうだ」
ということが分かったからです。
それでは、次にどこを見直せばよいのでしょうか。
次回は「毎年続く支出」を見直す
次に注目したいのが、毎年発生する支出です。
住宅ローンの繰り上げ返済では、まとまった金融資産が必要になります。
一方、
保険料
通信費
基本生活費
その他の固定的な支出
などは、一つひとつの金額はそれほど大きくなくても、毎年続きます。
例えば年間10万円の改善でも、10年間続けば単純計算で100万円になります。
特に50代から老後までの長期間を考える場合、
毎年続く支出を見直す効果は、少しずつ積み重なっていきます。
次回は、
第19回 固定費を見直すとキャッシュフローはどう変わる?
として、春夫さん一家の毎年の支出を見直してみましょう。
まとめ|「繰り上げ返済しない」という選択肢もある
今回は、春夫さん一家の住宅ローンを見直しました。
春夫さん一家は、退職後も住宅ローン返済が続きます。
そのため当初は、
「まとまった一時金で繰り上げ返済すれば、老後のキャッシュフローを改善できるのではないか」
と考えました。
しかし、住宅ローンの状況と金融資産を一緒に確認すると、
低金利である。
すでに返済終盤に入っている。
繰り上げ返済によって削減できる将来の利息が限定的である。
老後のために手元の金融資産を確保したい。
ということが分かりました。
そこで春夫さん一家では、
住宅ローンの全額繰り上げ返済を優先せず、現在の返済を続ける
ことにします。
キャッシュフロー改善というと、
「何かを削る」
「何かを変更する」
ことばかり考えてしまいます。
しかし、
検討した結果、変更しない。
これも重要な判断です。
キャッシュフロー表を使えば、
住宅ローンだけを見るのではなく、その選択が将来の金融資産にどう影響するのか
まで考えることができます。
そして、効果が小さい項目を無理に変更する必要はありません。
春夫さん一家では、住宅ローンよりも別のところに改善の余地がありそうです。
次回は、毎年続く支出に目を向けて、キャッシュフローを改善できるか確認してみましょう。
■自分で作るキャッシュフロー表 作成講座一覧
- 第1回 キャッシュフロー表とは?なぜ50代に必要なのか
- 第2回 キャッシュフロー表を作る前に準備するもの
- 第3回 ライフプランを見える化する仕組みを知ろう
- 第4回 キャッシュフロー表の家族構成を入力しよう
- 第5回 ライフイベントを書き出そう
- 第6回 キャッシュフロー表の収入を入力しよう
- 第7回 キャッシュフロー表の支出を入力しよう
- 第8回 住宅ローンを入力しよう
- 第9回 教育費を入力しよう
- 第10回 退職金を入力しよう
- 第11回 年金・老後の収入を入力しよう
- 第12回 現在の金融資産を入力しよう
- 第13回 運用利回りを設定しよう
- 第14回 完成したキャッシュフロー表を見てみよう
- 第15回 年間収支の見方|赤字になる年を確認しよう
- 第16回 金融資産残高の見方|老後資金は何歳まで持つ?
- 第17回 キャッシュフロー表を改善してみよう
- 第18回 住宅ローンを見直すとキャッシュフローはどう変わる?
- 第19回 家計の固定費を見直すとキャッシュフローはどう変わる?(近日公開)
- 第20回 退職金・老後資金の使い方を見直そう(近日公開)

